消化器内科について
消化器内科では、食道・胃・十二指腸・小腸・大腸・肛門という全長約9mにも及ぶ消化管、さらに肝臓・胆道(胆のう、胆管)・膵臓・唾液腺といった付属器官によって構成される消化器に関しての診療を行います。
対象となる臓器は非常に数多く、また、その原因も炎症性のもの、ウイルスや細菌による感染症、機能性疾患、自己免疫疾患、良性・悪性の腫瘍など、多岐にわたっています。そのため、消化器疾患における診療には、より専門的な知識と豊富な経験が必要となってきます。当院では、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会の専門医・指導医である院長が、一人一人の患者様に関し、生活習慣や環境などを丁寧に伺いながら、専門性の高い診療を行ってまいります。
消化器においては、胃がん、大腸がん、膵臓がん、肝臓がんなど日本において死亡数が上位に位置するがんが多数あります。これらは早期発見が重要です。なんらかの不調を感じましたら、お早めにご受診ください。
以下のような症状でご不安な場合、消化器疾患の可能性がありますので、ご相談ください。
- お腹の不調
- 腹痛、背部痛
- 胃もたれ
- 吐き気
- 胸やけ
- 便秘
- 血便
- 食欲不振
- 急な便意がある
- 下痢が止まらない
- 急に体重が減った
- 顔色が悪いと言われた
- など
消化器の病気には、主に以下のようなものがあります。
- 逆流性食道炎
- 食道カンジダ症
- 急性胃炎
- 慢性胃炎
- 胃十二指腸潰瘍
- ピロリ菌感染症
- 機能性消化管障害(過敏性腸症候群(IBS)、機能性ディスペプシア など)
- 感染性胃腸炎
- 急性腸炎(虫垂炎、憩室炎、虚血性腸炎など)
- 便秘症
- 下痢症
- 炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)
- 脂肪肝
- 急性肝炎
- 慢性肝炎 ・肝硬変
- 胆石
- 胆のう炎、胆管炎
- 胆のうポリープ
- 胆のう腺筋腫症
- 急性膵炎
- 慢性膵炎
- 自己免疫性膵炎
- 膵のう胞
- 閉塞性黄疸
- 食道がん
- 胃がん
- 大腸がん
- 肝がん
- 胆のうがん
- 膵がん
- など
胆道・膵疾患
胆道とは、胆汁の通る道(胆管、胆のう、十二指腸乳頭部)の総称です。胆汁は肝臓で作られ、胆管を通って十二指腸に至り、食物中に含まれる脂肪分の消化を補助します。胃や十二指腸に食物が無い場合は、胆嚢に貯められ、必要に応じて胆のうが収縮し胆汁が流れ出る仕組みになっています。
膵臓は胃の後ろ側、背中側に張り付くようにある細長い臓器で、多くの臓器や血管に囲まれています。役割としては内分泌機能と外分泌機能があり、内分泌機能としてはインスリンやグルカゴンという、血糖値の調節を行うホルモンの分泌を行います。インスリンが不足した場合、糖尿病を発症します。外分泌機能では、膵液という消化酵素を十二指腸内に分泌します。膵液は非常に活性度が高く、膵液の分泌障害が起こると、急性膵炎という、命に関わる重篤な炎症を引き起こす場合があります。
当院長は胆道・膵疾患が専門であり、以下の疾患に対する精査治療を今までに多数の患者様に対して従事してまいりました。当院では、診断の結果、より高度な検査や外科処置、入院加療が必要と認めた場合は、速やかに提携する病院に紹介いたします。
胆道の主な疾患としては、以下のようなものがあります。
- 胆石症(胆嚢結石、総胆管結石、肝内結石)
- 急性胆のう炎
- 慢性胆のう炎
- 胆のう腺筋腫症
- 胆のうポリープ
- 先天性胆道拡張症
- 膵・胆管合流異常
- 肝門部胆管がん
- 遠位胆管がん
- 肝内胆管がん
- 胆のうがん
- 十二指腸乳頭部がん
- など
膵臓の主な疾患としては、以下のようなものがあります。
- 急性膵炎
- 慢性膵炎
- 膵のう胞
- 自己免疫性膵炎
- 膵がん
- など
胆石
胆石は、主に胆のうにできた結石(砂粒のような塊)のことで、その胆石が胆のうの出口や胆管に詰まると、上腹部の右側に激しい痛みが引き起こされます。これが胆石発作です。発作がなくとも、胆石がある状態のことを胆石症と言います。また胆石ができる場所によって、胆のう結石、胆管結石、肝内結石(まれに肝臓内の胆管にできるもの)と呼び分ける場合もあります。
胆石ができる原因は、胆汁の成分バランスの崩れにあります。胆汁はコレステロール、レシチン、胆汁酸、ビリルビン(胆汁の色素成分)などの成分からなっていますが、コレステロールの比率が高くなると、溶けきらずに結石となります。これは「コレステロール結石」とも言われ、日本人の胆石の7~8割がこのタイプになります。
この他、溶血性貧血や肝硬変、胆道感染などでビリルビンの比率が高まってできる「ビリルビン結石」、胆汁が十二指腸から胆管に逆流し、大腸菌に感染することで胆管にできる「ビリルビンカルシウム結石」というものもあります。
胆石があっても、ほとんど症状がみられない「無症状胆石」が胆石症の2~3割を占めていますが、食事(特に脂っこい食事)をとった後などに、胆のうの収縮・弛緩が起こり、胆石が移動、胆のうの入り口や胆管にはまり込むことで、痛みを伴う胆石発作を引き起こします。痛みが起こる場所は腹部の右上のあたりやみぞおちのあたり、また背中や右肩に痛みが出ることもあります。さらに吐き気や嘔吐、発熱、下痢などの症状が現れる場合もあります。
また胆管が胆石で詰まり、胆汁が滞ることによって、皮膚や白目の部分が黄色くなる黄疸や、褐色尿(ビリルビン尿)が出たり、胆のうや胆管で炎症を起こす場合があります。炎症が起こると高熱が出るほか、敗血症と呼ばれる重篤な病気に発展する危険性もあります。
胆石の診断は問診の他に、腹部エコー検査やCT検査、MRI検査(MRCP)などの画像診断にて確認を行います。また胆のう炎や胆管炎を併発しているかを調べるため、血液検査にて、白血球などの炎症を示す数値や肝臓や胆管、膵臓の数値を検査することがあります。
基本的に胆石はあるものの、痛みなどの症状がない場合は経過観察として、1年に1回程度、腹部エコー検査を行います。ただし、胆石発作や胆のう炎の症状がある場合、胆のう内に結石が多数存在して機能低下を起こしている場合は手術を検討します。
治療としては、胆石発作の激しい痛みに対しては、薬物療法として、非ステロイド系抗炎症薬や、胆のうの緊張を緩和し、胆汁の流れを良くする抗コリン薬等を用い、細菌感染を起こしている場合は抗生物質を投与する場合もあります。胆石発作は繰り返すことが多く、胆石除去の検討が必要な場合もあります。
胆石除去の方法には、胆汁酸を含んだ胆石溶解薬で胆石を溶かす方法(小さなコレステロール胆石の場合で、半年以上内服薬を服用します)、内視鏡により胆石を除去する方法、腹腔鏡手術などにより胆のうを摘出する方法、さらには体外から衝撃波を当てて結石を破砕し、体外に排出させる方法などがあり、胆石の状況や症状、身体の状況などを見て、治療法を検討します。
胆石症は生活習慣病ということもできます。特に食習慣が重要で、予防としてはまたコレステロールの多い食物は避け、水溶性の食物繊維(コレステロールの吸収を抑えたり、コレステロールを含んだ胆汁を排出する働きがある)を積極的に摂ることが大切です。またアルコールやコーヒーは適度にとれば胆石形成を抑制する働きがあると言われていますが、取りすぎは肥満や胃酸分泌の促進につながり、逆効果となりますので注意しましょう。また急激なダイエットをした人、1日中座っていることが多い人なども胆石ができやすいといわれていますので、注意が必要です。
胆のうポリープ
胆のうポリープは無症状ですので、健診などの腹部超音波検査で偶然発見されることが多く、その発見率は5~10%とされています。ほとんどの胆のうポリープはコレステロールポリープという良性のポリープで、肥満・脂質異常症・糖尿病といったメタボリックシンドロームが関係していると報告されています。胆のうポリープは小さな病変ですので、CTやMRIではなかなか映らず、腹部超音波検査や超音波内視鏡検査(内視鏡を用いた超音波検査)が有用です。コレステロールポリープは、数mm程度(10mm未満)の球形または類円形を呈しており、多発する傾向があります。コレステロールポリープであれば非腫瘍性病変ですので経過観察となりますが、大きさが10mm以上となると腺腫やがんの可能性が出てきますので、手術を検討することになります。その他に、増大傾向を示すポリープや大きさにかかわらず広く胆のう粘膜と接している(広基性)ポリープも胆のうがんの可能性がありますので、手術適応とされています。
初回診断時から3~6ヵ月後に再度腹部超音波検査を行い、さらに6~12ヶ月後の経過観察で変化がない場合は1~2年ごとの経過観察となります。
胆のう腺筋症
胆のう腺筋症は、胆のうの壁が厚くなる病気ですが、胆のう壁の慢性炎症などにより、胆のうの粘膜上皮が、胆のう壁の筋肉の層にまで増殖したRokitansky-Ashoff洞(RAS)と呼ばれるものが増えることで、胆のう壁が肥厚します。
胆のう腺筋症は、壁の厚くなる部分によって、以下の3つに分けられます。
限局型 (底部型) |
胆のうの底部に限局した腫瘤を形成 |
---|---|
分節型 | 胆のうの頚部や体部が全周性に厚くなり、内腔が狭くくびれる |
全般型 (びまん型) |
胆のう全体の壁が厚くなっている状態 |
40~60歳代の男性に多いとされていますが、基本的に胆のう腺筋症自体には自覚症状はなく、健康診断や他の病気検査のために受けた超音波検査やCT検査で指摘される場合があります。ただし、胆石や胆のう炎を合併した場合には症状が現れます。たとえば胆のう炎の症状としては、右上腹部の痛み、吐き気やお腹の張りなどがあります。
胆のう腺筋症の検査では、CT、MRI(MRCP)、腹部超音波検査が有効です。これにより胆のう壁の肥厚や胆石の状況、胆のうがんの可能性などを確認できます。血液検査でCEA やCA19-9などの腫瘍マーカーを検査することもあります。さらに詳しく調べる必要がある場合は、超音波内視鏡検査などを行うことがありますので、その際は連携医療機関に紹介致します。
胆のう腺筋症は良性病変ですので、特徴的な画像所見(肥厚した胆のう壁内にRASというのう胞状の水の袋が複数存在)が見られ、無症状であれば経過観察を行います。腹痛などの症状がある場合、胆のうがんの可能性が否定できない場合は手術を検討します。胆のう腺筋症から胆のう癌が発生しやすいという報告はありませんが、胆のうがんの合併例の報告はありますので、胆のうポリープと同様6(~12)ヵ月ごとの経過観察をお勧めします。
閉塞性黄疸
黄疸とは、眼球の結膜や皮膚などが黄色く染まる状態を指します。黄疸の症状としては黄染の他に全身の皮膚のかゆみや尿の色が濃くなる、灰白色の便が出る、腹痛、発熱、全身のだるさ、食欲不振などを伴うこともあります。
黄疸には、発症した場合、内科的治療が中心となる「内科的黄疸」と外科的処置が必要となる「外科的黄疸」の2種類に分類できます。内科的黄疸は溶血性黄疸(赤血球崩壊の増加)、薬物やアルコール摂取、甲状腺機能低下症、長期の絶食、慢性心不全、体質性黄疸(Gilbert症候群)、急性肝炎、慢性肝炎、非代償性肝硬変などが原因として考えられています。
一方の外科的黄疸が「閉塞性黄疸」とも呼ばれるものです。閉塞性黄疸は、胆管系の閉塞や狭窄により起こります。胆管系が閉塞する要因として、胆石、総胆管結石、慢性膵炎、胆道がん、膵がん、肝がん、胃がんなどのリンパ節転移などがあります。
閉塞性黄疸は、血液検査で肝臓の数値(ASTやALT)、黄疸の数値(ビリルビン)、胆道系酵素値(アルカリフォスファターゼやγ-GTP)などを調べます。これらの値が上昇していると閉塞性黄疸が疑われます。閉塞性黄疸が疑われたときは、腹部超音波検査、CT、MRI(MRCP)などの画像検査により、結石や腫瘍など閉塞性黄疸の原因、胆管の閉塞部位などを調べます。また、超音波内視鏡(内視鏡を用いた超音波検査)使用することで、腹部超音波検査では観察が困難な胆管、膵臓も十分に観察することが可能となります。
その後、その原因に応じて主に内視鏡を用いて、詰まった胆管を解除する処置を行います。
総胆管結石が原因であれば、十二指腸乳頭部(胆管の出口)を特殊なナイフで切開、またはバルーンで拡張して結石を取りやすくし、バルーンやバスケット状の器具で結石を除去します。
胆道がんや膵がんなどの悪性腫瘍による閉塞の場合は、内視鏡的にステントという筒状のものを胆管内に挿入して、胆汁の流れを確保します。その後、がんの進行度によりそれらの病変の手術、手術が困難な場合は抗がん剤治療などを検討します。
胆道癌
胆道とは、胆汁がつくられる肝臓から、十二指腸までの胆汁の通り道の総称です。肝内胆管、肝外胆管、胆のう、十二指腸乳頭部に分けられ、これらの部位に悪性腫瘍が発生するのが胆道がんです。
胆道がんのうち、胆管がんは50~60代に多く発生し、症状が現れにくく、発見したときにはすでに進行していることが多いとされ、転移もしやすいと言われています。男性が女性の2倍、かかりやすいと考えられています。胆のうがんは60歳代に多く、女性にやや多いと見られています。
日本では年間約2万3000人が胆道がんと診断され、がんの患者数としては、男性では9位、女性では7位に位置し、高齢になるほど罹患率が高くなっています。胆道癌の原因としては、胆のう炎や胆管炎といった慢性の炎症から引き起こされるものや、先天的な異常(先天性胆道拡張症、膵胆管合流異常など)、さらに近年では、工場などで使用される塩素系有機洗浄剤により胆管がんが発症する可能性があることが報告されています。
胆道がんは初期にはあまり自覚症状が無く、進行してくると「疼痛」「全身の倦怠感」「黄疸」などの症状がみられ、胆道がんと診断される場合かあります。
「疼痛」では、右上腹部やみぞおちに痛みが現れます。「全身の倦怠感」では、食欲不振や体重減少、発熱などの症状も伴うことがあります。さらに「黄疸」が出ることは、胆道癌の特徴で、胆道がんの9割の人に見られ、眼球や皮膚の色が黄色くなります。
胆道がんの診断に際しては、閉塞性黄疸のときと同様に血液検査や腹部超音波検査、CT、MRI(MRCP)などの画像検査を行います。これらは体への負担が少ない低侵襲検査です。これらにより、腫瘍の大きさや位置、胆道の狭さの程度、転移など病変の広がりを調べます。
胆道癌の治療としては、外科切除、抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療があり、それらに加えて、症状を緩和する治療があります。根治が望めるのは外科手術による切除ですが、がん細胞をすべて取りきる必要があるため、検査をしっかりと行って、場合によっては肝臓や膵臓、リンパ節等、広い範囲を切除する必要も生じます。手術が難しい患者様に対しては抗がん剤治療が選択されます。使用される抗がん剤としてはゲムシタビン、シスプラチンなどがあります。
当院では、胆道がんが疑われる場合や高度な検査・治療が必要と判断した場合、検査・治療が行える医療機関をご紹介し、スムーズに治療に移れるよう、連携を取っていきます。
膵のう胞
膵のう胞とは、膵臓に液体の溜まった袋のようなもの(のう胞)ができるものです。症状は特に見られず、その多くは健診などの腹部超音波検査、CT、MRI等で発見されます。原因としては先天的なもの、後天的なものがあり、急性膵炎や慢性膵炎の後にできる仮性膵のう胞というものもあります。
膵のう胞の中には、「腫瘍性膵のう胞」というものがあります。そのため、膵のう胞自体が良性から悪性に徐々に変化する可能性もありますので、注意が必要です。また、膵のう胞の患者様の1~5%程度に通常型膵がんが発生するとされ、健常人の20倍以上のリスクとも言われています。そのため、現状ではたとえ小さな膵のう胞であっても膵がんの高いリスクとして経過観察が推奨されています。
膵のう胞に対しては、腹部超音波検査、MRI(MRCP)、血液検査で経過観察を行っていきます(膵のう胞はCTよりもMRIの方が確認しやすく、繰り返しのCTは被爆の問題もありますので、CTは必要時に行うことがおすすめです)。経過観察中に膵内の固形腫瘍の出現、閉塞性黄疸、膵管拡張、のう胞内結節、のう胞の急速な増大、腫瘍マーカーであるCA19-9の上昇などが見られたときは悪性の可能性を考慮して、超音波内視鏡検査などの精密検査が必要となります。
膵のう胞がある場合は、のう胞自体の悪性化がないか、のう胞以外の膵臓に通常型膵がんが発生してないかの2点を確認していく必要があります。そのため、当院としましては、少なくとも6ヵ月に1回(最初の1年は3ヵ月に1回)の経過観察を推奨しています。悪性所見がなければ、安心して経過観察が可能ですので、健診などで膵のう胞の指摘を受けた場合には、一度ご相談ください。
慢性膵炎
膵炎は、アミラーゼなどの膵臓による消化酵素が膵臓自身を傷つけることで炎症を引き起こす病気で、急性膵炎と慢性膵炎があります。急性膵炎は主にアルコールの大量摂取によって膵液の分泌量が増え、膵管の内圧が上がり、膵炎が引き起こされるものであると考えられています。また急性膵炎のもう一つの大きな原因として、膵管と胆管の合流部である十二指腸乳頭に胆石が詰まることによる炎症があげられます。
それに対して慢性膵炎は、やはりアルコールが原因と考えられるものですが、長年の多飲により、正常な膵臓の細胞が破壊され、次第に繊維化したり石灰化したりしてしまう病気です。膵液が停滞することで膵石ができることもあり、膵石があると膵液が流れにくくなるという悪循環に陥ってしまいます。
慢性膵炎では、当初「代償期」と呼ばれる期間があり、進行すると「非代償期」と呼ばれる段階になります。「代償期」は、慢性的に膵炎が進行し、組織の破壊や修復を繰り返している過程で、5~10年の長さが考えられ、その間、みぞおちから背中が痛い、身体がだるい、アルコールの摂取や、脂っこいものを食べることで痛みが強くなる、吐き気や嘔吐、食欲不振、お腹の張りなどの症状を感じることがあります。
「非代償期」では、むしろ腹部の痛みは軽減、あるいは無くなってくるものの、膵臓の機能は大きく低下します。消化酵素が不足して消化不良や下痢を起こし、さらに膵臓で作られるインスリンの分泌量が低下して糖尿病を合併することもあります。
慢性膵炎の検査では、問診、触診、血液検査、CTやMRI(MRCP)、腹部超音波検査による画像診断等を行います。画像診断では、膵管の拡張や膵石の存在を確認することができます。慢性膵炎と診断された場合、消化酵素やインスリン等ホルモンの分泌がまだ保たれている段階では、禁酒や低脂肪食などの食事療法を行い、症状や進行を抑えるために消化酵素薬とたんぱく分解酵素阻害薬を内服するようにします。消化酵素やホルモンの分泌が減少し、消化不良や糖尿病を合併してしまっているような場合には、消化酵素の補充やインスリンの投与が必要となります。また膵石が存在する場合は、衝撃波による石の破砕、もしくは内視鏡あるいは手術によって石を除去することも検討します。
膵炎は重症化すると命に関わる病気ですし、慢性膵炎は膵がんの発生リスクにもなります。糖尿病などを合併すれば、さらに他の病気の併発にもつながり、大きく健康を損なうことになります。膵炎の疑いがある症状が見られましたら、お早めにご受診ください。
自己免疫性膵炎
自己免疫性膵炎(Autoimmune pancreatitis:AIP)は、1995年に提唱された比較的新しい病気です。その後、免疫グロブリンのひとつであるIgG4との関連が報告され、涙腺・唾液腺に現れるミクリッツ病などとともにIgG4関連疾患の代表的な疾患の一つと認識されるようになりました。
この自己免疫のひとつであるIgG4の異常により、膵臓に炎症が生じることで膵臓が腫れ、中を通る膵管が狭くなります。これにより、消化酵素の通りが悪くなってしまいます。さらにインスリンの分泌にも障害が起き、血糖値のコントロールに支障をきたして糖尿病を引き起こすことがあります。また膵臓が腫れることで、胆汁の流れ道である胆管に影響を与え、胆汁の流れを阻害、消化管へのビリルビンの排泄が滞ってそれが血液中にあふれ、黄疸の症状を呈する場合もあります。
自己免疫性膵炎では、急性膵炎のような痛みなどの症状はなく、比較的ゆっくりと進行していきます。むしろ胆管への影響から黄疸などの症状が現れ、上腹部や背中の痛み、体重減少、食欲不振、倦怠感などの症状から発見されることもあります。また糖尿病が急速に悪化することでも発見されることがありますし、他のIgG4関連疾患から、目の乾きや唾液の減少といった症状から発見されることもあります。
血液検査でIgG4が高値を示し、腹部超音波検査やCT、MRI(MRCP)、超音波内視鏡検査などの画像検査で典型的な所見を呈したときに自己免疫性膵炎と診断されます。自己免疫性膵炎と診断された場合は、治療の第一選択はステロイド薬による薬物療法となります。 ステロイド薬を服用し続けることによって、膵臓の炎症が速やかに改善することが多く、通常の生活を送ることが可能とされている病気です。ただしステロイド薬は血糖が上がりやすくなったり、免疫力が下がったりする副作用もありますので、食事や手洗い、人混みは避けることなどに気を付けることが重要です。
膵がん
膵がんとは、膵臓にできる悪性腫瘍のことを指しますが、その内、90%を占めるのが、「浸潤性膵管(しんじゅんせいすいかん)がん」と呼ばれるもので、膵液の通り道である膵管から発生します。他にはインスリンを作るランゲルハンス島(膵島)細胞や、膵液を作る細胞に発生することもあります。肺がん、大腸がん、胃がんについで死亡原因の第4位となっていますが、近年、日本では膵がんが増加傾向にあり、この30年で8倍以上に増加しています。60歳頃から増加が見られ、高齢になるほど多くなっていきます。
膵がんは初期に特徴的な自覚症状が見られないことから、早期発見が難しいがんとされています。進行すると膵管や胆管が塞がれることにより、上腹部痛、背部痛、皮膚や白目が黄染する黄疸、食欲低下、体重減少などの症状がみられるようになりますが、その段階では、がんがかなり進行してしまっていることも少なくありません。また、インスリンの分泌に障害が起こることで、糖尿病の発症や悪化がみられる場合もあります。さらに進行してしまうと、十二指腸が塞がれて食事がとれなくなったり、腹部に水が溜まったりすることもあります。
発生の原因は、まだ明らかではありませんが、近年、特定の遺伝子変異が膵臓がんの発生に大きく関わっていることが研究で明らかになりました。同じ家系内に膵臓がんの人がいる場合、家族性膵がんを発症しやすいことも知られています。この他には、喫煙習慣、さらには慢性膵炎、糖尿病、肥満等により、発症のリスクが高くなると考えられています。
早期発見が難しいとされていますが、血液検査や腹部超音波検査など画像検査で発見の可能性を高めることができます。
血液検査では、膵臓の機能を評価するためにアミラーゼ値を調べたり、CEAやCA19-9といった腫瘍マーカーを調べたりします。近年では、“リキッド・バイオプシー”と呼ばれる、尿、唾液、血液などを用いて、より高い精度でがんを発見できるという腫瘍マーカーも登場しています。
画像検査では、腹部超音波検査や造影CT、MRI(MRCP)などを行います。さらにこれらの検査では発見できない小さながんを確認するため、超音波内視鏡検査を行う場合もあります。膵臓は腹部の深い位置にあるため、超音波装置のついた内視鏡により、胃や十二指腸の中から膵臓などの臓器に超音波を当てて検査するものです。
膵がんと診断された場合、治療としては、手術、抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療がありますが、がんの進行度合い(ステージ)や年齢、身体の状態、また患者様ご本人の希望に応じて、適切な治療を選択していきます。
当院では、膵がんが疑われる場合や高度な検査・治療が必要と判断した場合、検査・治療が行える医療機関をご紹介し、スムーズに治療に移れるよう、連携を取っていきます。